保険と自費の違いって?

・補綴物(被せ物・入れ歯・ブリッジ等)を作る

保険診療で十分?自由診療って歯医者が儲かる?

 入れ歯でも被せ物でも「型を取って、石膏模型を作り、歯科技工士に発注する。」実際に物を作製するのは歯科技工士ですので、技術者である歯科技工士の技術、知識はとても重要です。しかし、どんなに腕の良い技工士でも、歯医者から発注される石膏模型の精度以上の精密な補綴物を作製する事はできません。

 技工物の良し悪しは歯科技工士の知識・技術と歯医者が出す石膏模型の精度の両方が車の両輪のように関係しています。精度の良い石膏模型は、歯医者の「型とり」と「石膏模型の作り方」が大いに

関係します。

型を取る

型をとる材料:アルジネート、寒天、シリコンラバー等々 

 それぞれの材料の性質で精度、寸法安定性、取扱いの難易度、必要な器具が大きく

違い、当然、材料そのものの値段、必要な物品の経費が違ってきます。

型のとり方

 少なくとも正確な削合辺縁(マージンライン)を表現できている型でないと適合の

良い補綴物はできません。削ったまま型をとった場合と歯と歯茎の間に圧排糸という

糸を入れてマージンラインを明確にして型をとった場合の石膏模型は同じ精度ではあ 

りません。

 従って、一口に「適合が良い」と言っても、保険診療という枠の中で「診療報酬」とい

う形で支払われる金額が決まっている場合、コストを度外視して補綴物作製していると

歯科医院は潰れてしまうので、経費も考えた材料を使う事になります。

 コストという意味で顕著な例は、皆さんがお馴染みの「銀歯」です。

一般的に歯科用パラジウム合金を使用しますが、この合金の12%は「金」が入って

いて、この「金」が投機対象となっているここ5年以上、金価格が暴騰して価格上昇、

加えて数年、パラジウムが工業界で必要とされ需要が高まった為か、金以上の価格となる

という暴騰により、さらにこの歯科用合金の価格は暴騰し、1グラム3000円弱となって

います。

奥歯1本作製するのに、1.5グラムとするとこの保険の金属代だけで4500円弱です。

そこに技工料、その他の材料費が原価として必要となります。

厚生労働省もより実勢価格に即するように半年に1回は価格(=診療報酬)を見直し、さらなる

15%以上の乱高下という暴騰には2か月後には診療報酬を見直されるようになりましたが、

放置されていた時期は歯科医院経営を大いに圧迫しています。2020年6月現在までの半年前後、

歯医者はこの銀歯(正確には銀色の被せ物、以後銀歯と記載)を患者様のお口に入れれば入れる「赤字」という時期に至っています。

必要な治療をすればする程「赤字」、しかも患者様には見た目は嫌だけど、安いから我慢すると

嫌われている銀歯、銀色の詰め物がこれ程高価な材料になっているのです。

歯科医院は乱立して、経営が厳しい環境に置かれながら、この制度の下ではモチベーションも

下がるでしょうね。今の保険医療体制は、どこに向かっていっているのでしょう。

からと言って「不正請求」が許される訳ではありませんが、保険診療主体の歯科医院では、

政策的に赤字部門を放置されれば、どこかで穴埋めしたくなるのも人情でしょう。

 

2020年6月から新たに原価は安いが、扱いが難しいという鋳造チタンが保険適応となりました。現場の技工士や歯科医師は疑問を持つ点が多々ある材料です。疑問を持つ材料である要因の一つと

して、とても高価な鋳造機械を必要としますので、資金力のある大手技工所しか実質的には取り扱いは難しいでしょう。これは、即ち、個人経営の資金力の小さな技工所は、扱う機会すら与えられない、即ち売り上げが下がる可能性があるという事です。幸い、当院の保険適応補綴物を作製して下さっている技工所は取り扱い可能です。しかし、今一つ、実際に歯医者が診療室で患者様のお口に金属冠を入れる時、多少の調整が必要ですが、この鋳造チタンは調整時に変色をきたす可能性と調整が難しいという事が懸念されます。これが「差別化」、「二極化」と言うのであれば、そうですね。

「二極化」は資金力のウエイトが高いとも思いますが、「差別化」は切磋琢磨した技術力によるというならともかく、土俵にもあげてもらえないというのは、「将来を担っていく若い芽を摘む」という事にならなければ良いのにと老婆心ながら懸念しています。

     

石膏模型を流す

石膏の種類 :普通石膏、硬石膏、超硬石膏等々

  種類によって、固まった時の強度を主とした物性が異なり、当然、値段が違います。

そして、それぞれの石膏には混水比といって、100gの粉に対して、水温○度の水△ccで練ると決められています。これを守らなければ、本来、その石膏に期待できる物性(物の性質)は発揮されません。いくら歯科技工士に良い技術があっても、てきとうな石膏模型から精度良い技工物を魔法の如く作る事は無理です。例えば石膏を練るにも手練りもありますが、気泡という空気の穴ができ難いようにする為には、「真空練和器」不可欠です。

自由診療と保険診療は次元が違う

 このような背景から、保険診療で使用できる材料で求められる適合と、自由診療での適合を同じ土俵で語る事は不可能です。最終補綴物の材料の性質に加え、治療時間、製作過程おける手間、歯科医と歯科技工士の知識・技術、全てが異なります。

 逆に言えば、最終補綴物の材料だけがセラミックや金合金、金属を使用した入れ歯で、製作過程における材料、手間、歯科医師のみならず作製してくれる歯科技工士の技術、知識、姿勢が保険診療と同じでは、自由診療の補綴物としての価値はどうでしょう。

こういう補綴物を「高級バケツ冠」と揶揄する向きもあるようです。

ですから、自由診療の補綴物に真面目に取り組んでいる歯医者は、自由診療は儲かる対象ではなく、予知性(どの位もつかだけでなく、将来の変化も視野に入れる事)を考え、精魂込めて行う、手間のかかる治療という認識を持っていますので、自由診療を患者様から依頼された時は、「喜ぶ」どころか「身の引き締まる思い」です。

      

・医療保険制度

 日本の皆保険制度は素晴らしい制度です。でも、年金が破綻しかけているように、医療保険が財政的に困難な状況に陥っている現代では、昔のように「健康保険証」や「後期高齢者受給者証」さえ窓口に出せば、どこでも同じ医療水準の治療が受けられるかどうかという事を残念ながら認識される必要がある時代になっているかもしれません。いや、昔も同じ水準の治療が受けられていたのかは分かりませんね?

 患者様にもいろいろな価値観をお持ちの方がいらっしゃいます。医療を提供する側も一様ではありません。それを一言に「相性」と言ってしまうには、この分野は専門性ゆえに情報公開が不足していたり、患者様も「専門的なことは分からない」と「丸投げ」していらっしゃる傾向が強いように感じます。そして、患者様が求める治療を提供する歯医者に出会うまでは、まるで「運だめし」のような状況が現実のようです。

 ですから、私もこうしてホームページという形で症例写真を交えて情報発信する事にしました。当院の症例写真には一切の修正等は加えていませんが、あくまでインターネットによる情報発信は一方通行の情報発信です。真偽も含めて記載されている内容をよく読んで、ご自分のニーズにあっているかどうかよく吟味し、「自分の体は自分で護る」「セルフディフェンス」の意識を高く持たれて、「自分で判断する」事を切に願います。